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Research



1. タンパク質のユビキチン化

 ユビキチンは真核細胞に高度に保存された76アミノ酸のタンパク質であり(図1)、C末端のGly残基のカルボキシル基を介して様々な細胞内タンパク質のLys残基のe-アミノ基にイソペプチド結合で付加されます(モノユビキチン化)。さらに、標的タンパク質に付加されたユビキチンの7ヶ所のLys残基あるいはN末端アミノ基に別のユビキチンのC末端が付加されることにより、標的タンパク質上でユビキチン鎖が伸長します(ポリユビキチン化)。

 この時、ユビキチンの7つのLys残基あるいはN末端のどのアミノ基を介してユビキチン鎖が伸長するかにより、8種類の立体構造の異なるポリユビキチン化修飾が可能になります(図2)。

 Lys48を介したポリユビキチン化修飾がそのタンパク質をプロテアソームでの分解に導くシグナルとして働くことは有名ですが(2004年ノーベル化学賞)、最近、それ以外のタイプのユビキチン化がシグナル伝達、DNA修復、ヒストン制御、エンドサイトーシスなど、多彩な細胞機能を制御していることが次々と明らかにされ、細胞生物学の世界で注目を集めています。

 図3に示すように、ヒトゲノムにはタンパク質にユビキチンを付加するユビキチンリガーゼが約500種類もコードされていると見積もられており、細胞内の何百種類ものタンパク質がユビキチン化による調節を受けると考えられています。また、ユビキチン化は可逆的なタンパク質修飾であり、ユビキチン化されたタンパク質からユビキチンを外す脱ユビキチン化酵素がヒトでは約90種類存在します。これらの脱ユビキチン化酵素は標的タンパク質から“ユビキチン・シグナル”を外すことにより、ユビキチン化によるタンパク質の機能制御を解除する働きをもつことが明らかにされてきています。すなわち、細胞内の多くのタンパク質の運命や機能は、そのユビキチン化と脱ユビキチン化のバランスによって制御されています。

2. ユビキチン化による増殖因子受容体ダウンレギュレーションの制御

 細胞膜上の増殖因子受容体は、増殖因子が結合することによって活性化され、細胞内に増殖シグナルを発信します。同時に、活性化された受容体はエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ、初期および後期エンドソームを経てリソソームに運ばれ、リソソーム内の加水分解酵素によって分解されます(図1;リソソーム経路)。このプロセスは受容体ダウンレギュレーションと呼ばれ、活性化された増殖因子受容体から増殖シグナルが過剰に発信されることによって細胞が過増殖することを防ぐための調節機構です。受容体ダウンレギュレーションの破綻は、癌などの腫瘍性疾患につながることが知られています。


 活性化された増殖因子受容体はユビキチンリガーゼc-Cblによってユビキチン化されます。この修飾がリソソーム輸送のシグナル(荷札)となり、何百種類と存在する細胞膜タンパク質の中で活性化受容体だけが選択的にリソソームで分解される仕組みになっています。近年、増殖因子受容体の他にトランスポーターや細胞接着分子などの様々な細胞膜タンパク質も必要な時にユビキチン化依存的にリソソームに輸送されることが明らかにされ、ユビキチン化が普遍的なリソソーム輸送シグナルであることがわかってきています(Tanno & Komada, J. Biochem. 2013)。

 それでは、細胞はどのようにしてユビキチン化された細胞膜タンパク質を見つけ出すのでしょうか? 私たちは、この細胞機能に重要な役割を担うタンパク質Hrsを発見して以来(Komada & Kitamura, Mol. Cell. Biol. 1995; Komada et al., J. Biol. Chem. 1997; Komada & Soriano, Genes Dev.1999)、その分子機構を調べてきました。そして、Hrsがエンドソーム上でSTAMタンパク質とユビキチン結合性の複合体ESCRT-0を形成し、ユビキチン化された増殖因子受容体のユビキチンに結合することによりそれらを選択的にリソソームへの輸送経路に送り込むことを見出しました(図2、Mizuno et al., Mol. Biol. Cell 2003; Morino et al., Exp. Cell Res. 2004; Mizuno et al., J. Biochem. 2004; Komada & Kitamura, J. Biochem. 2005; 駒田, 現代医療 2004)。

3. 受容体ダウンレギュレーションにおける脱ユビキチン化酵素USP8の役割

 私たちは、細胞が増殖因子受容体のダウンレギュレーションにブレーキをかける仕組みをもっていることを、EGF受容体(Mizuno et al., Mol. Biol. Cell 2005; Mizuno et al., Traffic 2006; Komada, Curr. Drug Discov. Technol. 2008; 駒田&水野, 細胞工学 2006, 遠藤&駒田, 生化学 2010)やWnt受容体Frizzled(Mukai et al., EMBO J. 2010; 駒田&後藤 細胞工学 2010; Buranaら 細胞工学 2013、日経産業新聞で報道)について明らかにしてきました。

 「2.」で述べた初期エンドソーム上のタンパク質複合体ESCRT-0には脱ユビキチン化酵素USP8が結合します(図1)。USP8は活性化されエンドサイトーシスされた増殖因子受容体からユビキチン(=リソソーム輸送シグナル)を外すことでそのリソソーム輸送を抑制します。すなわち、受容体ダウンレギュレーションの速度はそのユビキチン化と脱ユビキチン化のバランスによって調節されており、それによって活性化受容体から発信される増殖シグナルの量が多過ぎも少な過ぎもしない適度な量になるように調節されているということです(図2)。

 私たちはまた、USP8の酵素活性の調節機構も明らかにしました。14-3-3タンパク質は、様々な細胞内タンパク質の特定の6アミノ酸配列(Arg-Ser-X-Ser-X-Pro [X:任意のアミノ酸])に結合し、それらタンパク質の働きを様々に調節するタンパク質です。USP8にはこの14-3-3タンパク質結合モチーフ(Arg-Ser-Tyr-Ser-Ser-Pro)が存在し、この配列に14-3-3タンパク質が結合することによりUSP8の脱ユビキチン化活性が抑制され、14-3-3タンパク質が解離することでUSP8は活性化されます(図3;Mizuno et al., Exp. Cell Res. 2007)。ただし、14-3-3タンパク質の解離がどのようにしてUSP8を活性化するのかは、最近まで不明でした。

4. USP8の遺伝子変異によるクッシング病の発症機構

 クッシング病は、神経外科医であったHarvey Cushingによって1932年に初めて報告された疾患であり、脳下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生細胞の腫瘍からACTHが過剰に分泌されることでひき起こされます。ACTHは副腎に作用して副腎からの糖質コルチコイドの分泌を促すホルモンであるため、クッシング病の患者ではACTHの分泌過剰が糖質コルチコイドの分泌過剰をきたします。そして、糖質コルチコイドの過剰が満月様顔貌、中心性肥満、糖尿病、高血圧などの様々な症状をひき起こします(図1)。クッシング病にはこれまで有効な治療薬がなく、高度な技術を要する脳下垂体腫瘍の外科的切除が完治のための唯一の治療法となっています。そのためこの疾患は厚生労働省の特定疾患に指定されており、この難病の有効な治療薬の開発に向け、その発症機構の解明が待ち望まれていました。私たちは最近、約40%のクッシング病患者において疾患を発症する分子メカニズムを解明しました(Reincke et al., Nat. Genet. 2015、Yahoo!ニュース, 毎日新聞, 日刊工業新聞など、報道多数)。

図1. 脳下垂体腫瘍におけるUSP8の変異によるクッシング病の発症
図1. 脳下垂体腫瘍におけるUSP8の変異によるクッシング病の発症

 私たちの共同研究グループ(ドイツ)がクッシング病の患者17人から摘出した脳下垂体腫瘍の遺伝子解析を行った結果、6人の腫瘍でUSP8の14-3-3結合モチーフに変異を発見しました(図2)。

 私たちの研究室でこれらのUSP8変異体がクッシング病をひき起こす分子機構を調べたところ、USP8変異体は14-3-3タンパク質と結合できなくなっており、その結果14-3-3結合モチーフの直前で限定分解が起きやすくなっていました。限定分解により生じるC末端側の40-kDa断片(C40)はほぼ酵素活性ドメインのみからなり、過剰に高い脱ユビキチン化活性を獲得していました。そしてEGFにより活性化されたEGF受容体を過度に脱ユビキチン化することでそのダウンレギュレーションを阻害しました。その結果、リソソームで分解されず細胞膜に留まったEGF受容体から細胞増殖シグナルが持続的に発信され続け、これが脳下垂体細胞の過増殖、すなわち腫瘍をひき起こすと考えられています(図3)。

 さらにその後のフォローアップとして、日本をはじめ様々な国の計300人以上のクッシング病患者の脳下垂体腫瘍の遺伝子解析を行い、やはり40%近い腫瘍において同様のUSP8のホットスポット変異を見出しています(Perez-Rivas et al., J. Clin. Endocrinol. Metab. 2015; Theodoropoulou et al., Eur. J. Endocrinol. 2015; Hayashi et al., Eur. J. Endocrinol. 2016)。    

5. 今後の研究方針

 クッシング病発症の分子メカニズムが明らかになったことは、そのより詳細な病態解明、そしてこれまで存在しなかった有効なクッシング病治療薬の開発に向けて、大きな一歩になったといえます。私たちの研究室では、ひき続き基礎的な細胞生物学のレベルで受容体ダウンレギュレーションにおけるUSP8の機能、およびクッシング病で発見されたUSP8変異体の異常機能の解析を行っていくことで、最終的にクッシング病治療にぜひとも貢献できるような研究を推進していきたいと考えています。現在の具体的な研究内容について詳しく聞きたい大学院受験生の方は、駒田(makomada [at] bio.titech.ac.jp)までお問い合わせください。